農家インタビュー|研究者から畑へ
東大大学院で光合成を研究していた男が、なぜキュウリとレタスを育てているのか
高学歴農家・吉野さんインタビュー(前編・研究編)
東京大学大学院で光合成の基礎研究に取り組み、博士課程にも在籍していた研究者。
今回はそんな吉野さんが、かつて研究していた内容を「研究者向け」と「一般向け」の
二つの切り口で語ってくれた。
研究テーマは「高温に強いシアノバクテリアの光合成」
吉野さんが大学院時代に取り組んでいた研究テーマは、
「高熱性シアノバクテリアの光化学系の改変」。
一言でいえば、光合成を行う微生物の仕組みを人工的に改変し、
新しい機能を持たせることを目指した基礎研究だ。
対象となったのは、温泉など高温環境に生息するシアノバクテリア。
高温でも壊れにくく、タンパク質の安定性が高いことから、
応用研究の素材として注目されていた。
光合成の「電子の通り道」を入れ替える研究
研究の中心は、光合成の明反応を担う「光化学系Ⅰ」という装置の内部構造。
その中にある電子伝達成分(フィロキノン)を人工的に操作し、
本来2つあるものを1つにしたり、ほとんど含まれない状態にしたりすることで、
光合成の働きを詳しく調べていった。
この研究は、光が当たったときに電子が飛び出す性質を利用し、
将来的には「高感度な光センサー」への応用も想定されていた。
まずは「高温に強いシアノバクテリアでも同様の改変が可能か」を確かめることが、
吉野さんの役割だったという。
実験を成立させるための「もう一つの研究」
もう一つの研究テーマは、実験そのものをやりやすくするための工夫だった。
高熱性シアノバクテリアは、光合成に強く依存しており、
光合成の重要部分を壊すと生き残れないという問題があった。
そこで吉野さんは、他のシアノバクテリアが持つ
「グルコースを取り込む遺伝子」を導入。
光合成に頼らず、糖をエネルギー源として成長できる変異体を作り出すことに挑戦した。
実際に、グルコースを与えることで増殖する株を得ることには成功。
ただし、完全な暗条件では育たず、わずかな光が必要という
“謎を残した結果”でもあったという。
基礎研究から農業へ
この研究は、すぐに農業や作物に応用されるものではない。
しかし、光合成という生命の根幹を理解し、
人為的に操作するための基盤を築く研究だった。
「正直、今その研究がどう発展しているかは分からない」と笑う吉野さん。
それでも、自分が関わった基礎研究が、
いつか誰かの手で次のステップへ進むことを願っているという。
研究者だったからこそ見える“農業”
今回のインタビューで浮かび上がったのは、
「研究」と「農業」が決して遠い世界ではないという事実だ。
観察し、仮説を立て、試し、結果を見る。
吉野さんが畑で行っていることも、根底は研究と変わらない。
次回の後編では、研究の世界を離れ、
なぜ農家として生きる道を選んだのか、
吉野さん自身の人となりに迫っていく。


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